否認権とは

破産手続が始まったあとは、破産した人は財産処分をすることはできません。破産管財人に処分権が移ります。
また債権者は破産をした人に直接取立をすることができなくなります。債権者はあくまでの破産手続の中の配当手続でないと支払を受けることができなくなります。
これはあくまで破産手続が始まった後の事なので、破産手続が始まる前は財産処分するのは債務者の自由なのが原則です。また債権者に対して支払をするのも自由です。
ですが、破産状態にある場合は債権者としてはそのまますぐ破産手続をとってもらって残った財産から配当を受けることを期待しています。
このように倒産状態にある時に、財産を安く売られたりすると、破産手続で債権者が受けられる配当が減ってしまいます。
また一部の債権者のみに支払をしてしまうと、支払の元になっているのは債務者の財産なので、一部支払を受けられなかった債権者からすると、一部支払がなかった場合と比べて破産手続で受ける配当金額が減ってしまいます。
このように正式に破産手続が始まっていないけれども、破産手続が始まってもおかしくないような倒産状態の時に、債権者の配当を減らす行動の効力を否定するのが否認権ということになります。
否認権で効力を否定される行為には、大きく、債権者を害する破産者の行為(詐害行為といいます)と既存の債務に対する担保供与又は債務消滅に関する行為(偏ぱ行為といいます)の2種類があります。 破産者が不当な財産処分を行うことによって債権者の配当に当てられるべき財産が減少する場合や、一部の債権者のみに弁済を行うことにより他の債権者への配当額が減少する場合などのように、債権者の利益を害する行為がなされた場合に破産管財人がこの行為の効力を否定して、債権者の利益を回復する手段が破産法で設けられています。 これを否認権といいます。

詐害行為否認

詐害行為とは債権者を害する破産者の行為のことをいいます。これには財産を不当に安く売却する行為や逆に財産を不当に高く買い取る行為などが該当します。
詐害行為についての否認権が成立するためには、破産者が債権者を害することを知っていたこと(「詐害意思」といいます)が必要となりますが、支払停止又は破産申立後の行為であればこの「知っていたこと」は必要ではなくなります。
また、否認行為の相手方が債権者を害する事実を知らなかったことを証明できた時は否認権は成立しません(相手方が債権者を害する事実を知っていたことを「受益者の悪意」といいます)。
さらに、債権者を害する破産者の行為の中には、贈与などのように対価をもらわないで財産を譲渡するというものがあります。これを「無償行為」というのですが、「無償行為」については、支払停止後又は支払停止前6ヶ月以内に行ったものであれば、上記の破産者の詐害意思や受益者の悪意の要件を満たしてなくても否認権が成立します。破産者が債権者を害することを知っていたこと」の要件を満たしていなくても否認権が成立します。
これも詐害行為否認の一種ですが、支払停止後又は支払停止前6ヶ月以内の行為であれば詐害意思や受益者の悪意がなくても否認権が成立する点で通常の詐害行為否認よりも否認権が成立しやすくなっていますので、これを詐害行為否認と分けて無償否認と呼ぶことがあります。

当事務所が詐害行為否認が認められた裁判例を調査したところ、以下の裁判例が見つかりました。

一つは、破産会社が破産申立前にした事業譲渡が詐害行為にあたるとした破産管財人の否認権行使が認められた東京地方裁判所平成22年11月30日の判決ですが、その中で「本件事業譲渡当時破産会社は支払不能の状態にあったものと認められるところ、本件事業譲渡は、相手方が重畳的債務引受をしなかった債務(ビュファとの取引に関連する債務等)にかかる破産会社の債権者にとっては、破産会社の責任財産の引き当てが減少することになることからすれば、破産債権者を害する行為に該当し、破産会社はそのことについての認識があったというべきである。」と判断されています。

要するに、破産者が支払不能状態にある時に、財産を減少させる行為を行えば、それは破産債権者を害する行為に該当し、破産者は債権者を害することの認識があったものと判断されている訳です。
ポイントは、問題となる行為が支払不能の状態で行われたか否かということになります。支払不能状態で財産を減少させる行為をすれば債権者を害する行為に該当すると判断され、また、破産者も債権者を害することの認識があったものと判断されるということになります。

もう一つは、破産者から妻へ自宅土地建物を贈与された事例において、支払停止前6ヶ月以内の贈与でないとして無償否認の成立が否定されたものの、支払不能状態での贈与であり債権者を害する行為にあたるとして詐害行為否認が認められた東京地方裁判所平成22年3月19日の判決です。

無償否認は、支払停止後又は支払停止から6ヶ月前までの行為であれば破産者の詐害意思や受益者の悪意がなくても否認権が認められる点で否認権が成立しやすくなっているのですが、支払停止から6ヶ月以上前の行為であれば全て否認の対象から外れる訳ではありません。支払停止から6ヶ月以上前の行為であっても支払不能状態で無償行為を行い、相手方の悪意も認められれば否認権が成立します。この判決はこの事を明らかにしたものといえます。

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偏ぱ行為否認

支払不能又は破産手続開始申立の後で、既に存在する債務について担保を提供したり、債務を消滅させる行為をしたときに、否認の対象となります。このような担保提供や債務消滅をすることを偏ぱ行為といい、これを否認するので偏ぱ行為否認といいます

ここで支払不能というのは、①債務者に支払能力がないために②弁済期にある債務について、③一般的継続的に弁済することができない状態のことをいいます。

①の支払能力は、財産、信用、労務によって決められますので、仮に財産がない場合でも信用や労働力があれば支払不能にはあたらないことになります。
②弁済期にある債務についての問題なので、弁済期がきていない債務が将来弁済できないことが確実だとしても現在の債務を支払っている限りは原則として支払不能にはならないことになります。しかし現在支払をしていていたとしても、返済の見込みが立たない借入や商品の投げ売りによってによって返済している場合には客観的に支払能力がないとして支払不能にあたる場合があります。
③「一般的」というのは債務の全部又は大部分が支払われていないことをいい、「継続的」というのは支払ができない状態が継続することですので、一時的な手元不如意は支払不能にあたらないことになります。

ただし、支払停止があれば支払不能と推定するという条文がありますので、支払停止であることが証明されれば、支払不能でないことが証明されない限りは支払不能として判断されます。

支払停止は、支払能力がないために一般的継続的に債務の支払ができないと考えて、その旨を明示的または黙示的に外部に表示する行為をさします。

支払停止が問題となった裁判例として、最高裁平成24年10月19日の判例があります。これは弁護士が債務整理の受任通知が送付された後に債権者に返済した行為が偏ぱ否認の対象になるかが問題となったのですが、債権者一般にあてて債務者への連絡及び取立の中止を求める内容であること、給与所得者にすぎないことからすると、自己破産申立予定と記載されていなくても、支払停止にあたるとしたものです。
これに対して、事業再生ADR手続申請に向けて行われた支払猶予の申入が「支払停止」にあたらないとした東京地裁平成23年8月15日の判決もあります。

破産管財人が偏ぱ行為否認をする場合には、支払不能後又は破産手続開始申立後の債務弁済や担保提供といった偏ぱ行為が行われたことの他に、債権者が支払い不能や破産手続開始決定申立を知っていたことを証明する必要があります。ただし、債権者が破産者の親族、同居者、法人であるときの理事、取締役などの役員、株式会社の議決権の過半数を有する者であるときなどの場合には、債権者が知っていたことが推定されるとされています(この場合は債権者が知らなかったことを証明できない場合は、否認権が認められることになります)。

偏ぱ行為否認が成立する事が多い例としては、債権者から給料差押で債権回収がされている場合や勤務先から借入をしていて毎月の給料から返済金が控除されて給料が支給されている場合などがあります。

このような給料差押による回収や給料天引きによる返済であっても、支払不能後や破産手続開始申立後に行われていれば偏ぱ行為否認が成立する可能性があります。

しかも支払不能後の債権差押による回収や給料天引による回収金が増えてこれが20万円以上になると、同時廃止を希望して破産申立をしても、裁判所から否認権行使によって20万円以上の財産が形成できる可能性が高いとして管財手続に振り分けられる可能性も出てきます。ですので、偏ぱ行為否認の成立の可能性について慎重に検討する必要があります。

相当価格での財産売却行為の否認

支払不能状態で財産を安く売却すれば詐害行為否認の対象となりうることは、詐害行為否認の項目で述べました。
では、支払不能状態で財産を時価で売却した場合は全く否認の対象とならないのでしょうか?

この点、今の破産法が施行された平成17年1月1日以前は、破産法が改正される前は不動産を適正価格で売却した場合でも否認の成立の可能性があるとする判例がありました。不動産は債権者にとって確実に回収可能な財産なのに、適正価格であっても売却してお金に変えてしまうと債務者が使ってしまったり隠してしまうことが簡単になるので、債権者の利益に反すると考えられたからです。

ところが、不動産売却が適正価格であっても否認の対象となってしまうと、経済的危機状態の時に財産処分して事業継続や再生を図ろうとしても、否認の可能性があるとして買い取る側から躊躇されようになり、これが事業継続や再生の妨げになるとして批判されるようになりました。

そこで平成17年1月1日から施行された今の破産法では、相当価格での財産処分の場合には、以下の要件を満たした場合に限り否認を認めると定めて、否認権が成立する範囲を制限しました。

1 処分行為が不動産の金銭の換価などの処分による財産の変更により破産者が隠匿などの処分をするおそれを現に生じさせるものであること
2 破産者が対価として得た金銭などについて隠匿などの処分の意思を持っていたこと
3 相手方が、処分当時、破産者が隠匿などの処分意思を持っていることを知っていたこと

実際問題としては、適正価格で売却された場合、売却によって得られた金銭が殆ど残っているとか、費消されたとしても合理的な費消である(破産申立手続費用や合理的な範囲の生活費)であるような場合には債権者の利益に反するものではないとして否認の対象にはならないものと思われますが、合理的でない費消がされていてこれを取り戻すのが難しい場合に、不当な費消の原因となった売却そのものについて否認権が行使される可能性が出てくるものと思われます。

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